「地域連携就労支援パス」の提案

「地域連携クリティカルパス」とは、急性期病院から回復期病院を経て早期に自宅に帰れるような診療計画を作成し、治療を受ける全ての医療機関で共有して用いるものとして作成されます。診療にあたる複数の医療機関が、役割分担を含め、予め診療内容を患者に提示・説明することにより、患者が安心して医療を受けることができるようにするものです。対象とする傷病は、脳卒中、大腿骨頸部骨折、がんなどで、施設ごとの診療内容と治療経過、最終ゴール等を診療計画として明示します。回復期病院では、患者がどのような状態で転院してくるかを把握できるため、改めて状態を観察することなく、転院早々からリハビリを開始できるなど、医療連携体制に基づく地域完結型医療を具体的に実現するものです。

この「地域連携クリティカルパス」を参考に、「地域連携就労支援パス」を作るとどうなるでしょうか。「特別支援学校卒業時に一般就労できなかった者」や「精神科医療機関の利用者で直ちに一般就労を目指すのが難しい者」等が地域の就労支援機関を経て早期に一般就労できるような支援計画を作成し、支援に関わる全ての支援機関で共有して用いるものとなります。支援に関わる支援機関(就労支援、特別支援学校、医療機関等)が役割分担を含め、予め支援内容を利用者に提示・説明することにより、安心して一般就労に向けて取り組めるようにするものでしょう。内容としては、支援機関ごとの支援内容と支援経過、最終ゴール等を支援計画として明示します。これにより、地域で一般就労に向けた支援に関わる機関が明確となり、各機関が連携して対応することで、一般就労に着実に繋げる体制が構築されることになります。

こうした「地域連携就労支援パス」は、どのようにすれば作ることができるでしょうか。これまでネットワークづくりに取り組んできた地域の事例を見ると、以下の5つのステップで取り組むのが現実的だと思われます。

ステップ1:地域にある社会資源の洗い出し

就労支援機関(ハローワーク、就業・生活支援センター、就労移行支援・就労継続支援事業所等)だけでなく、働く障害者を支える生活支援機関(生活支援センター、グループホーム、社会福祉協議会等)、教育機関(特別支援学校等)、医療機関(精神科デイケア、保健所等)も含め、幅広く地域の状況を把握します。

ステップ2:それぞれに期待できる支援内容の確認

一般就労の支援について関心のある機関で集まり、制度上の位置づけに限らず、現実に提供できる支援内容を出し合い、参加機関全体で共有します。

ステップ3:一般就労に向けた「基本パス」の作成

上記を踏まえ、典型的なケースを想定して、一般就労に向けた流れに沿った各支援機関の役割、標準支援期間等を明記した「基本パス」を作成します。

(想定ケース例)

・特別支援学校卒業時点で就職できず訓練してからの就職を目指すケース

・一般就労を退職した者の再就職を目指すケース

・休職中で職場復帰を目指すケース

ステップ4:個別ケースのケーススタディによる検証

「基本パス」を参考に、個別のケースについてケーススタディを行い、各支援機関の役割の可能性と限界を確認し、「基本パス」を補足します。

ステップ5:実践での「個別パス」の作成と検証

一般就労に向けた実際のケースに即した「個別パス」を作成し、個別的な支援の運用を通じて問題点を把握・検証し、現実に即した効果的な支援方法を検討し、その経験を全体のノウハウとして蓄積していきます。この過程では、ニーズに即して新たなサービスやサービス提供者の開拓を図ります。

(個別パスに盛り込む事項例)

・一般就労に就職に向けた支援を担う機関と想定支援期間(複数の支援機関が同時に変わる場合は分担する役割を明示。経過とともに支援機関が変わる場合は移行のタイミングも明示)

・生活支援を担う機関(複数の支援機関が変わる場合は分担する役割を明示)

・支援機関の連携の機会(ケース会議等の開催)

(参考)「地域連携就労支援パス」の作り方