福祉施策の活用

障害者総合支援法に基づき提供される就労支援サービスには、「就労移行支援事業」、「就労継続支援事業(A型)」及び「就労継続支援事業(B型)」の3つがあります。これらの事業を行う施設には、複数の事業を同じ施設で行う多機能型もあります。いずれの事業も、医療機関を経営する医療法人等でも実施できるため、これらの事業を行う施設を医療機関に併設したり、医療機関の近くに開設することにより、治療と就労支援を密接に連携して提供できる可能性があります。利用者は当該医療機関の患者に限られず、広く地域の障害者が対象となりますが、運営主体が精神科の医療機関を経営している施設では、精神障害を有する利用者が多くなる傾向にあります。

一般就労に最も近い立ち位置にあるのは「就労移行支援事業」であり、デイケア等から一般就労へとつなげる機能が期待されていますが、一般就労への移行実績は事業所により相当の格差があります。このため、一般就労を希望する患者に対して、デイケアの出口として紹介する先として、地域にある就労移行支援事業所の中でどこが適切か、送り出す医療機関の側でも、しっかり見定めておくことが必要でしょう。この点に関連して、障害者総合支援法の改正により、新たに「障害福祉サービス等の情報公表制度」が創設される(平成30年4月施行)ことが注目されます。同様の仕組みは、既に介護保険で導入されていますが、障害福祉サービスの施設・事業者に対して、サービス内容等を都道府県知事へ報告させるとともに、都道府県知事は報告された内容を公表するという仕組みです。就労移行支援事業については、一般就労への移行実績も公表対象になるでしょうから、利用者だけでなく医療機関の側でも、一般就労への道筋を描きやすくなると思われます。

(参考)障害福祉サービス等の情報公表制度の創設(平成30年4月~)

 

(1)就労移行支援事業

「就労移行支援事業」は、一般企業等への就労を希望する障害者(通常の事業所に雇用されることが可能と見込まれる者)を対象に、①就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練、②求職活動に関する支援、③職場開拓、④職場への定着支援を行うもので、利用期間は2年とされています。一般就労を希望するデイケア等の利用者に対しては、できるだけ早く就労移行支援事業に移行させ、職場実習、就職支援を行うとともに、採用後の定着支援を行うことが望まれます。就職後には平日のナイトケアや休日のデイケアを医療機関の側で担うなど、就労移行支援事業の定着支援活動との密接な連携により、安定的な就労を実現させている例もあります。

一般就労への移行実績が施設間で相当格差があるほか、定着支援の取り組みが必ずしも十分でないといった指摘もあったことから、就職後の職場定着率に応じた給付費の加算制度が設けられています。更に、障害者総合支援法の改正により、一般就労に移行した者の就労に伴う生活面の支援を行う「就労定着支援」サービスが創設され、これらを活用して職場定着の支援の充実が期待されています。

 

(2)就労継続支援事業(A型)

「就労継続支援事業(A型)」は、一般企業等での就労が困難な障害者(通常の事業所に雇用されることが困難であり、雇用契約に基づく就労が可能である者)に対して、雇用契約を締結して就労の機会を提供し、就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練を行うものです。雇用の形態はとっていますが、自立支援給付が支給されたり、利用料負担を求めるなどの点で、通常の一般就労とは異なります。利用者の中には、一般就労に移行できる者も相当存在しているとの指摘もあり、利用者の状況を適切に把握し、一般就労に移行できる者については、地域の就労支援機関と連携して一般就労に結び付けていくことが求められています。

 

(3)就労継続支援事業(B型)

「就労継続支援事業(B型)」は、一般企業等での就労が困難な障害者(通常の事業所に雇用されることが困難であり、雇用契約に基づく就労が困難である者)に対して、就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練その他の必要な支援を行うものです。本事業の利用者についても、一般就労に移行できる者も存在するとの指摘が一部の施設にあり、「就労継続支援事業(A型)」と同様、一般就労に移行できる者については、地域の就労支援機関と連携して一般就労に結び付けていくことが求められています。このほか、一般就労の継続が困難になった者の受け皿としての機能も期待されています。